Webサービスやアプリケーション、各種システムの開発において、近年アジャイル開発と呼ばれる手法が注目されています。
よく聞く言葉ではあるものの、詳しい内容までは把握していない人も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、アジャイル開発の定義を紹介するとともに、メリットやデメリット、開発を進めるうえでの注意点などを解説します。
アジャイル開発とは
はじめに、アジャイル開発とはどういった開発手法なのか、定義や目的、役割について紹介しましょう。
1. アジャイル開発の定義
アジャイル(Agile)とは日本語で「俊敏・機敏」といった意味をもつ言葉です。
すなわち、短期間に開発とリリースを繰り返す手法のことを一般的にアジャイル開発と呼びます。
アジャイル開発の原則は「アジャイルソフトウェア開発宣言」がもととなっており、この宣言は2001年にアメリカで17人の専門家らによって提唱され、以下の価値観を共通認識としています。
「プロセスやツールよりも個人と対話を、包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、契約交渉よりも顧客との協調を、計画に従うことよりも変化への対応を、価値とする」
(引用:アジャイルソフトウェア開発宣言https://agilemanifesto.org/iso/ja/manifesto.html)
2. アジャイル開発の目的・役割
アジャイル開発の目的は、顧客のフィードバックを取り入れながらコミュニケーションを強化し、製品の品質を高め、リリースまでの時間を短縮することです。
アジャイル開発が提唱される前までのシステム開発は、「要件定義」、「設計」、「実装」、「テスト」の4つのフェーズに分けて進められるウォーターフォール開発が一般的でした。
しかし、ウォーターフォール開発は開発プロセスの後半で要件や設計を変更することが困難であり、顧客の要求に対して変更を加えることが難しいという難点があったのです。
そこで、顧客の要求に迅速に対応するためにアジャイル開発は提唱され、実際に多くの開発現場で用いられています。
アジャイル開発のメリット・デメリット
アジャイル開発にはさまざまなメリットがある一方で、デメリットも存在します。
アジャイル開発のメリット
アジャイル開発のメリットとして、以下の3点が挙げられます。
1. 開発プロジェクトを柔軟に進められる
短期間で開発とリリースを繰り返す手法をとるため、顧客からの要求に応じて開発プロセスを改善しやすく、より顧客満足度の高い製品を開発することができます。
2. リリースのタイミングが早い
アジャイル開発では、ソフトウェアやシステムの機能を細かく分けて、機能単位で設計・開発・実装・テストを短期間で繰り返します。そのため、早いタイミングで製品を市場へリリースできます。
3. 不具合やエラーの修正コストが少ない
ウォーターフォール開発の場合、開発プロセスの途中で不具合やエラーが発生するとプロジェクト全体に手戻りが発生します。
これに対し、アジャイル開発では機能単位で設計とリリースを繰り返すため、不具合やエラーが発生した場合も修正にかかる影響が限定的で、工数が少なくてすみます。
デメリット
アジャイル開発のデメリットとして考えられるのは以下の2点です。
1. プロジェクト全体のスケジュール管理が難しくなる
顧客からの要求に応じて開発プロセスの改善や修正を行う必要があるため、プロジェクト全体のスケジュール管理が難しく、当初の予定どおりに完了できないケースも少なくありません。
2. 開発の方向性にブレが生じる
顧客からの要求を最優先にするあまり、当初の要件や仕様とは異なる方向性にプロジェクトが進むこともあります。
その結果、開発そのものの方向性が見失われ、場当たり的な開発に陥るケースも考えられます。
アジャイル開発に用いられる手法と適性
アジャイル開発ではさまざまな手法が用いられます。それぞれの手法は、どのようなプロジェクトに適しているのかも含めて紹介しましょう。
▶スクラム
開発手法としてのスクラムとは、ラグビーのスクラムを組むように、チームが一体となって開発を進める手法を指します。
機能ごとの開発と実装、評価を行う期間をスプリントとよび、これを繰り返しながらシステム開発に取り組むことが特徴です。
少人数のチーム単位で機能を開発していくため、チーム内でのコミュニケーションが重視されます。
Webサービス開発やモバイルアプリのように、リリース後も頻繁に更新が求められる案件の開発手法としてよく用いられます。
▶エクストリームプログラミング
エクストリームプログラミングとは、開発プロジェクトが変更されることを前提に考え、作業を細かく区切って進める手法です。
柔軟性のある開発手法であるため、要件が明確に定まっていない開発段階やプロジェクトでよく用いられます。
▶ユーザー機能駆動開発(FDD)
ユーザー機能駆動開発(FDD)とは、顧客のビジネスモデルを可視化してシステムに必要な機能を洗い出し、それらを実現するために、全体像を明らかにしたうえで、最小限の単位に分け、単位ごとの機能を開発します。こうした最小限の単位でシステム開発を繰り返す手法ですから、大規模な開発にも対応することができます。
単に小規模なシステム開発を繰り返すだけでなく、その前段階としてビジネスモデルの可視化や機能の洗い出しといったプロセスを踏むため、比較的開発規模の大きいシステムにも対応できます。
アジャイル開発の基本的な進め方と注意点
アジャイル開発に取り組む際にはどういったプロセスを踏むのかを紹介するとともに、開発を成功に導くための注意点も解説します。
アジャイル開発の進め方
アジャイル開発は以下の順番で進められます。
1. リリース計画の策定
はじめに、開発における仕様と要件を決定します。
アジャイル開発では開発途中で計画や方向性が変更されることもあるため、ウォーターフォール開発のような厳格な計画ではなく、大まかな方向性を示しておきます。
2. イテレーション
リリース計画から設計、実装、テストまでの一連の流れを繰り返すことをイテレーションとよびます。
リリース計画の策定が完了したら、短期間のイテレーションを繰り返しながらシステムの完成形に近づけていきます。
アジャイル開発の注意点
アジャイル開発を成功させるために、押さえておきたい注意点を2点紹介しましょう。
1. 適切な手法の選択
アジャイル開発の手法はひとつではなく、スクラムやエクストリームプログラミングなどさまざまな種類があります。
また、開発するシステムによっては必ずしもアジャイル開発が適しているとはいえず、ウォーターフォール開発が向いているケースも少なくありません。
特に厳密な要件が定まっており、開発の途中で仕様の変更が発生しえないプロジェクトの場合は、ウォーターフォール開発が合理的ともいえるでしょう。
開発するシステムや製品の特性を踏まえながら、適切な開発手法を検討・選択することが重要です。
2. チームメンバーのトレーニング
開発を担うエンジニアによっては、これまでウォーターフォール開発の経験しかなく、アジャイル開発は初めてというケースも想定されます。
特に、スクラムの手法をとる場合はチームメンバーとのコミュニケーションや連携が求められることから、あらかじめアジャイル開発の基礎を知っておくことも必要です。
OJTで学ぶ方法もあれば、外部企業が提供するアジャイル開発研修などもあるため、自社に適した方法でトレーニングを実践しましょう。
アジャイル開発で臨機応変かつスピーディーな開発を実現しよう
システム開発の現場では、顧客からの要望の変化によって方針が変わることも珍しくありません。
従来の開発手法ではそのたびに手戻りが発生し、納期に遅れがでたり、開発コストがかさんだりすることも少なくありませんでした。
アジャイル開発を用いれば、そのような課題が解消され、臨機応変かつスピーディーな開発が実現する可能性が高まるでしょう。
ただし、すべてのケースにおいてアジャイル開発が適しているとも断言できないため、開発するシステムや製品の種類に応じて最適な手法を検討することが大切です。