ベトナムのIT産業の実情とは?オフショア先として人気の理由を解説

2024年8月16日 by
ベトナムのIT産業の実情とは?オフショア先として人気の理由を解説
ひな


海外の国や地域にある拠点や企業にITシステム開発を委託するオフショア開発は、開発コストの削減や専門人材の確保などの観点から見るとメリットの大きい手法です。オフショア先として選ばれる国や地域はさまざまですが、なかでも人気が高いのがベトナムです。

なぜ、ベトナムはオフショア先として選ばれることが多いのか、現地のIT産業の実情や特徴を踏まえて詳しく解説します。

ベトナムのIT市場の現状


ベトナムは、世界のなかでもITの分野で成長を遂げている国のひとつです。

オフショア開発ドットコムが公開している「オフショア開発白書 2023年版によるとオフショア開発委託先国別ランキングでは、オフショア開発の委託検討先の国として3位のインド(13%)、2位のフィリピン(21%)を大幅に引き離し、ベトナム(48%)がトップを獲得しています。

このデータからも、ベトナムはIT産業が盛んな国であることがわかります。

ベトナムが選ばれる理由と現地のIT産業の特徴

なぜ、オフショア開発の委託先としてベトナムが選ばれているのでしょうか。現地のIT産業の特徴をもとにその理由を解説します。

|上昇志向があり将来性のある人材が豊富


「ベトナムIT人材プラットフォームトップ企業の2022年IT人材レポート(原本:Vietnam IT Market Report – Tech Hiring 2022)」というレポートがTopDevで公開されています。そのなかで、ベトナムのIT人材が業務に従事する主な理由としてもっとも多いのが「会社の成長性(43.5%)」であり、次いで「会社の同僚などの雰囲気(41.4%)」、「昇給への期待(40.3%)」などが挙げられています。

一方で、「仕事と生活のバランス」と回答した割合はもっとも少なく、17.2%にとどまっています。

また、ITエンジニアが就職先の企業を選ぶ基準としては、「技術的な挑戦」(52.9%)や「会社の技術レベル」(48.4%)を重視している傾向が高く、上昇志向がある人材が多いことがうかがえます。

また、ベトナムIT人材のレベルを見ておくと、5年以上の経験がある開発者はおよそ30%、経験年数が3年未満の開発者は50%を超えています。また能力レベルでは発展途上とされるIT人材は40%を超えていますが、中堅レベルは34%、ハイレベルとされるIT人材は18%という数値がでています。つまり、ベトナムIT人材の特徴をみると、上昇志向があり、将来性のある人材が多いといえるでしょう。

|最新技術がある


ベトナムIT産業の技術的な面を見ておきましょう。

ベトナムでは、PHPやJavaScriptといった開発言語を習得しているITエンジニアが多いほか、モバイルアプリ開発ではSwift、クラウドプラットフォームではAWSやAzure、さらにはAI開発に用いられることの多いPythonも高い人気を誇ります。

最新技術を活用したシステム開発の土壌ができていることから、オフショア開発の委託がしやすい環境にあるといえるでしょう。

|ベトナムが得意とする開発分野


ベトナムをオフショア先に選んだ場合、どのような開発分野に向いているのか、開発言語(プログラミング言語)の傾向から探ってみましょう。

最近注目されているAI関連分野の機械学習、深層学習の領域では優先的に使われるようになっているのがPythonというコンピュータ言語です。

この言語は処理速度が速く、ハードウエア互換性に優れており、さまざまなOSで動作するプログラミング言語です。

また、以前からよく知られているJavaは汎用性が高いプログラミング言語で、業務システム、Webサービス、スマートフォン用のアプリケーションなど多くのシステム開発に利用されているものです。

またWebアプリケーションの開発に特化したコンピュータ言語といわれるのがPHPです。この言語はWebサーバー上で動作し、ユーザーの要求にあったWebページを柔軟に制作できるという特徴があります。プログラミング初心者でも利用しやすい言語であるともいわれています。

こうした注目されているコンピュータ言語を使える人材がベトナムでどれくらい学ばれているのでしょうか。

ベトナムIT人材プラットフォームトップ企業の2022年IT人材レポート(原本:Vietnam IT Market Report – Tech Hiring 2022)」によると、ベトナムではPython、Java Script、Java、PHPなど要求される開発に対応できるコンピュータ言語を扱える人材が増えてきているといえます。

ほかにも、AWSといった言語も注目度が高く、クラウドプラットフォームなど委託にも対応できる環境にあるといえそうです。

ベトナムでIT産業が成長している背景と今後の展望


世界のなかでも、ベトナムはIT産業の成長が著しい国ですが、その背景にはどういった歴史があるのでしょうか。また、今後予想されるベトナムのIT産業の展望も解説しましょう。

|ベトナムのIT産業が成長している背景・歴史


東南アジアのなかでも、ベトナムはIT産業の成長が顕著で、統計にもあるとおり、先進的な技術・スキルを習得したエンジニアが多く存在します。

この背景には、ベトナム政府の長年にわたるIT産業の成長支援があると考えられます。

ベトナムでは、小学校から英語とプログラミング教育が行われており、多くの国民にとってITやプログラミングは身近な分野となっているのです。

日本でも近年、小学校からプログラミングがカリキュラムに取り入れられましたが、ベトナムでは2017年に教育省が小学校3年生のカリキュラムに外国語とコンピュータトレーニングの科目を導入しています。

また、中学に入るとソフトウェアコーディングをはじめとした専門的なIT科目が必修化されており、ベトナムにおけるIT人材の数は48万人にものぼっています。

このような教育政策もあり、若年層ほどITエンジニアに対する興味関心が高く、最新技術を活用できる土壌が醸成されているのです。

|ベトナムにおけるIT産業の今後の展望


IT人材を育成しても、そのスキルを活用できる場面がなければ無駄になってしまいます。

ベトナム政府は、単にIT人材を育成するだけでなく、並行してIT企業の誘致も積極的に展開しました。その結果、育成したITエンジニアの働き口を確保し、雇用を促進することに成功したのです。

企業誘致の具体的施策として、政府はベトナムに進出した企業に対して、事業内容や設置地域の性質に応じて、4年間の免税期間と9年間の減税期間を提供しています。

このような取り組みもあり、優秀なITエンジニアが多数排出されるとともに、IT企業の税務上のメリットも大きいことから、ベトナムがオフショア先として選ばれやすくなっているのです。

ベトナムでは、IT教育を受けた若者は今後さらに増えていくことが予想されています。一方で、日本ではDX人材の不足などに頭を悩ませている企業が増えています。今後は、優秀なIT人材を確保するためにベトナムをオフショア先として選ぶ企業が増加する可能性が高いといえるでしょう。

ベトナムでのオフショア開発を成功させるためのポイント


これまで紹介してきたベトナムにおけるIT市場の背景を踏まえて、ベトナムでのオフショア開発を成功させるためにはどういったポイントを押さえておくべきなのでしょうか。


  • 委託先の国の特性を把握


大前提として覚えておきたいのは、オフショア開発は委託する国や地域によってプロジェクトの成果や進め方が異なるという点です。

現地の担当者と言葉が通じず円滑なコミュニケーションができなかったり、現地の文化や風土を十分に理解できていなかったりすると、ビジネスに不可欠な信頼関係を構築することが困難です。

オフショア開発にあたっては、円滑なコミュニケーションと、文化の違いを互いに理解し合うことが重要になるので、事前に情報を集め、国の情勢、文化、生活習慣、ビジネス習慣などについて理解を深めておくことがポイントです。


  • ブリッジSEの活用


ブリッジSEとは、日本とオフショア先の橋渡しのような役割を担う担当者を指します。

このように聞くと通訳者をイメージする人も多いですが、ブリッジSEは単に翻訳や通訳としての役割だけでなく、オフショア先のプロジェクト進捗や品質に関する報告や、日本とオフショア先のミーティングの設定なども担います。

また、多くのブリッジSEは要件定義やシステム設計といった上流工程を担うことも可能なため、システム開発に関する知見も備えています。

ブリッジSEを任命することによって、互いのコミュニケーションの齟齬(そご)を解消しつつ、プロジェクトを円滑に進めることができます。

ベトナムを候補にさまざまなオフショア先を検討してみよう


開発コストの削減やIT人材の確保などの観点から、オフショア開発は有効な手段のひとつです。オフショア開発にあたっては、政府が積極的にIT産業を支援しているベトナムが選ばれることも多く、企業にとっては魅力的な委託先といえるでしょう。

オフショア先の選定にあたっては、それぞれの国や地域のIT産業の実情や税制なども考慮しておくことが重要です。また、言語や文化の違いがあるなかでも円滑にプロジェクトを進められるよう、ブリッジSEを任命することも有効といえるでしょう。

自社に最適なオフショア先を見つけるためにも、ベトナムを含めさまざまな国や地域を比較・検討してみましょう。